コンプライアンス推進弁護士ネットワークの利用の薦め
監事:上田 文雄(前札幌市長)

 企業等の事業者が営利・非営利を問わず、そのミッションを達成し発展させるためには、それぞれの組織が社会的信頼を獲得する努力を怠ってはならない。そしてこの信頼の基礎は組織の健全性にあり、これを保つためには組織内に組織の不適切要因を排除する制度が設けられ機能することが重要である。

 企業等事業者による事業活動の発展は社会的課題である。人々に役に立つ、社会的必要性を満たす事業者らの組織活動が、人々の生活の質を向上させ豊かな社会への発展を約束するからである。事業活動の発展は基本的に自由と競争によって期待される。しかし、その自由と競争は他者の生命・身体・自由・財産を侵害することがあってはならない。人々の叡智は他者との関わりを調整するため様々なルールを法定し、これを遵守することを信頼の基礎とする文化を形成してきた。

 時代の変化の中で、競争の激化や価値判断基準のあいまい化により、企業等事業者が重大な法令違反を犯し消費者をはじめ社会に多大な損失与えることが珍しくなくなった。 

誤った企業等事業者の活動は他者を傷つけると同時に、企業等事業者自身の社会的信頼を損ない事業の継続を危うくし社会的損失をも招く。

 このような事態を回避し、違法・不当な企業等の事業活動を早期に発見しこれを是正するため、公益通報者保護法が制定され、企業等事業者に不正行為通報者の保護を命じ、また事業所内部に通報を適切に措置する体制づくりを求めている。

 また、企業等事業者のもとで働くものが、その能力を十全に発揮し快適に働くことができる環境を作るため、いわゆるパワーハラスメント行為やセクシャルハラスメント行為を規制し、これに対処する体制設置を企業等事業者に求める法律も制定されている。

 そして、これらの法令を遵守し風通しの良い労働環境を整えることも、企業等事業者の社会的信頼を測る判断対象となる事だろう。  時代の変化は急激であり、企業等事業者において従来の事業経営マネジメントのほかに、労働環境整備を含めたコンプライアンス意識の向上と実践は、企業等事業活動発展のため必要不可欠の課題となっている。その課題に特化した相談学習機能を担おうとする専門家集団が、この度開設した一般社団法人コンプライアンス推進弁護士ネットワークである。多くの企業等事業者による積極的な利用により、それぞれの事業の健全発展を心から期待したい。

当法人の目的

 当法人は、弁護士会員の連携協力により会員および社会に対する法令遵守の啓発と推進により、組織運営に対する相談窓口の提供、法律改正等法律に関する情報提供、能力担保の研修等を実施し、組織の適切な運営、職場環境の整備等を図り、もって社会生活上の健全な経済活動、社会活動における社会正義の実現と社会全体の利益の増進に寄与すること目的とします。

当法人の役割

 相談窓口の設置が重要であり義務化もされているところではありますが、具体的な規程の整備、窓口構成員、設置後の対応等様々な点で専門的な知見が必要ともなりうるところであり、対応に苦慮される組織も少なくないと思います。    

 当法人は弁護士で組織をされておりますので、法的な知見に基づき、公益通報等に関する情報を提供させていただき少しでもお役に立つことができればと考えています。

企業等の窓口設置の法制度

 公益通報・内部窓口の設置、ハラスメント相談窓口設置等に関する法制度。
 内部通報、公益通報は、企業の不祥事を防止する重要な手段です。実効性を高めるため2006年4月1日から公益通報者保護法が制定され施行されていますが、2020年6月8日にこの法律は改正され強化されました。

 同法は2022年6月1日から施行されていますが、この改正にあたって、301人以上の企業に内部通報体制の整備が義務付けられました。300人以下の企業でも努力義務が課されています。

 また、働き方改革にて職場におけるハラスメント防止対策の強化も図られており、パワーハラスメントについては労働施策総合推進法(同法30条の2)にて、セクシュアルハラスメントについては男女雇用機会均等法(同法11条)にて、職場において相談窓口の設置が義務付けられています。現在相談窓口の設置義務は、企業の規模にかかわらず義務付けられており、すべての企業が対応を図ることが必要とされています。

 さらに、パートタイム有期労働法では、パートタイム労働者からの相談に応じて適切に対応することが義務付けられてもいます(同法16条)。

内部通報窓口設置の意義

 報道では、企業における個人情報の漏洩、産地偽装、巨額の損失隠し等、企業の不祥事が数多く取り上げられています。これらの問題は内部の労働者や取引先からの通報により明らかになることも少なくありません。

 また、企業が活動をするにあたってリスクは当然に生じえますが、そのリスクを軽減し管理していくためには、内部通報がリスクを把握する端緒となりえます。

そして、社会ではコンプライアンス経営を行っていくことが強く要請をされており、法令遵守しない企業は社会的存在を否定されかねません。そのような中、内部通報窓口を設置することで企業の不祥事を防止することは、このような経営を行っていくうえで極めて重要な意義を有しています。

ハラスメント窓口設置の意義

 ハラスメントは被害者はもちろんのこと、加害者や企業に対しても大きなダメージをあたえるものです。
 具体的には、被害者への影響としては、名誉、プライバシー等の個人の尊厳を害する、職務能率が低下する、精神や身体の健康を害することが挙げられます。

 加害者への影響としては、「ハラスメントをした人」ということで個人的な信用が失墜すること、懲戒処分を受けたり、重大な法的責任(損害賠償、刑事責任)を追及されるということもあります。それらの措置によってライフ・キャリア(人生プラン)の変更を余儀なくされかねません。

 企業への影響として、ハラスメントがある職場においては人間関係の悪化、士気の低下、組織のルール・秩序を乱し、生産性も下がると指摘されています。有能な人材が流出することにもなりかねません。

 さらに、ハラスメントが問題になれば企業自体の社会的信用が低下しえます。そのため、ハラスメントについては予防にエネルギーを注ぐことが理にかなっていますし、ハラスメントが生じた場合にも早期に対策をすることが重要です。

 そのような中、ハラスメント相談窓口の設置というのは、ハラスメントを予防、早期に発見して解決を図る上でも重要な意義を有しています。